慎重なピペッティング操作により培養細胞へのストレスを軽減

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慎重なピペッティング操作により培養細胞へのストレスを軽減

ストレスがもたらす隠れた影響

環境条件や継代数、培地関連因子など、細胞生存能力に影響を及ぼすと広く認識されているパラメーターが多く存在します。しかし、操作技術の違いに至るまでのあらゆるばらつきが、細胞の健康状態や結果の再現性 に影響を与える可能性があります。これらの影響の中には、明白であるものもあり、それゆえに容易にコントロールできるものもあります。例えば、微生物汚染 は目に見える構造やコロニーに成長し、古い細胞は老化によって異なる表現型を呈するようになります。生存能力へのストレスの影響は、培養中または培養後、あるいは専用の染色によってのみ確認できる場合があります。せん断応力は、ピペッティング、毛細管操作、遠心分離の際に細胞が遭遇する避けられないストレス要因であり、細胞生存能力と増殖率を著しく低下させます1。細胞が耐えられるせん断応力の大きさについては様々な意見がありますが2、限界値を超えると、細胞の健康に悪影響を及ぼす可能性があり、望ましくない細胞溶解や細胞死などの結果をもたらすという見解で一致しています。細胞生存能力に対するせん断応力の影響はすぐには現れにくく3、生存能力の著しい低下はせん断応力が加わってから最大24時間後に報告されています。4

細胞の剥離、サンプリング、播種、セルベースアッセイなど、細胞培養ワークフローにおいて欠かせない多くの工程では、ピペットを用いた混合操作が必要になります。この操作を慎重に行わないと、チップ先端の開口部で細胞がせん断されてしまいます。地下鉄の人混みを通り抜けることと同じように、狭すぎるチューブや速すぎる速度で細胞を通過させると、細胞が傷ついてしまいます。チップ先端の口径を小さくしたり、流量を増やしたりすることは、細胞の生存能力、拡散、増殖に影響を与えるのです5。ワイドボアチップは、細胞への負担を軽減するために開口部の直径を大きくしていますが、これだけでは問題の半分しか解決できません。手動ピペットで操作する場合、混合操作では毎回、若干のばらつきが出てきます。急な開始や停止、プランジャー速度の変動は避けられず、結果として、細胞を剥離または分離するために必要な多くの混合ステップにおいて、ばらつきが発生する可能性があります。混合やピペティング速度の変動により、細胞に異なるレベルのせん断応力が加わり、結果の再現性に影響を与えることにつながります。

Scientist pipetting cell culture medium into a 24 well plate using an INTEGRA pipette

せん断応力は、細胞の健康状態を害する他の原因と並んで、研究の再現性や細胞を用いた製造の生産性に重大な影響をもたらします。細胞培養操作の全体的な目標は健康な細胞を高収率で生産することです。したがって、こういったストレスによる細胞生存能力の予想外の変化は、研究者にとって貴重な時間と費用を費やすことに繋がります。このようなせん断応力の影響があまり理解されていない、あるいは特定されていない場合、細胞の生存能力や健康状態不良による表現型について、不正確な結果が導かれる場合があります。例えば、細胞毒性アッセイでは、細胞がせん断応力を受ける場合、毒性薬物が細胞生存能力に及ぼす影響が過大評価される可能性があります。このようなストレスが細胞の健康に及ぼす影響を軽減させるためには、細胞の取り扱いに注意を払う必要があります。

一歩進んだソリューション

細胞生存能力は、丁寧な取り扱いと適切なツールによって向上させることができます。壊れやすい細胞サンプルをピペティングする際は、細胞が通過するチップ先端の開口部が大きいワイドボアチップを選択することが賢明です。また、最新の電動ピペットでは、吐出速度や混合手順を定義したピペッティングプロトコルを選択、文書化、保存することで、ピペッティング性能のばらつきを抑えることが可能になるため、毎回の操作を同じ速度で実行することができます。これらのモードはあらかじめセットされていますが、アプリケーションの要件に合わせてカスタマイズすることも可能です。これにより、ユーザーの技術や経験が細胞処理の品質と安定性に与える影響を排除し、細胞生存能力に対するせん断応力の隠れた影響を軽減させることで、より多くの健康な細胞を生産することができるようになります。また、あらゆる細胞処理作業において、圧倒的な再現性を実現することが可能となります。

Scientist aspirates liquid from a 96 well plate
  1. Shi, J., Wu, B., Li, S., Song, J., Song, B., & Lu, W. F. (2018). Shear stress analysis and its effects on cell viability and cell proliferation in drop-on-demand bioprinting. Biomedical Physics & Engineering Express, 4(4), 045028.
  2. Brindley, D., Moorthy, K., Lee, J. H., Mason, C., Kim, H. W., & Wall, I. (2011). Bioprocess forces and their impact on cell behavior: implications for bone regeneration therapy. Journal of tissue engineering, 2011.
  3. Zoro, B. J. H., Owen, S., Drake, R. A. L., & Hoare, M. (2008). The impact of process stress on suspended anchorage‐dependent mammalian cells as an indicator of likely challenges for regenerative medicines. Biotechnology and bioengineering, 99(2), 468-474.
  4. Mulhall, H., Patel, M., Alqahtani, K., Mason, C., Lewis, M. P., & Wall, I. (2011). Effect of capillary shear stress on recovery and osteogenic differentiation of muscle‐derived precursor cell populations. Journal of tissue engineering and regenerative medicine, 5(8), 629-635.
  5. Agashi, K., Chau, D. Y., & Shakesheff, K. M. (2009). The effect of delivery via narrow-bore needles on mesenchymal cells. Future Medicine. 49-64.